【連載】第一回 面白いマンガの書き方1(池田六郎)
実用マンガも「面白さ」が求められる時代へ
日本の誇るコンテンツである「マンガ」ですが、近年は娯楽エンターテインメントだけではなく、広告や様々なジャンルの解説として使われる「実用マンガ」も一般的になってきました。
しかし、実用マンガが当たり前になれば、次に要求されるのは「マンガの質(面白さ)」です。例えばコマーシャルソング。大昔は商品名連呼が普通でしたが、現在では一流アーティストによる最新楽曲を使用することが当たり前となっています。マンガも同様で「従来の広告や解説をマンガにしました」だけでは通用しない時代が近づいています。
じつは簡単ではない「面白さ」
ではマンガの「面白さ」「面白い」とはなんでしょうか?
キャラクターの魅力?
ストーリー?
絵の上手さ?
しょせんは個人の好みかも知れませんが、それでは実用マンガを依頼する人は困りますよね。
例えば「お金」を考えてみましょう。 いまどき、売上げが多ければ儲かっている、などど単純に考える人はいませんよね。 人件費や広告費にムダが多ければいくら売上げがあっても儲かりません。 つまり、様々な必要経費と収入の内容を分析しなけば、その会社が儲かっているかどうかの判断は出来ません。
じつは「面白さ」も同じで、様々な要素(パラメーター)を分析することで初めて「面白さ」の判断が出来るのです。
「不快」の面白さ、面白くならないジャンルは無い
ここで少し視点を変えて、面白さの種類について考えてみましょう。 どういうことかというと、例えば、「笑い」「爽快感」「かっこいい」などは誰にとっても「面白い」ですが、「恐怖」「怒り」「悲しみ」などネガティブな感情は「面白い」でしょうか? 実はこれらも「面白い」、面白くすることは可能です。
例えば「恐怖」。 楳図かずお先生や水木しげる先生に代表される「恐怖マンガ」「ホラーマンガ」は長い歴史がありますし、別ジャンルでも、お化け屋敷や絶叫マシン、怪談話などは根強い人気があります。
例えば「怒り」や「悲しみ」。 池井戸潤さんなどの社会派小説は理不尽や不公正などに対する怒りがベースになっています。弱者を食い物にする大企業のエゴ、自己保身のために部下を平気で犠牲にする上司、「悲しみ」も同様で、愛する者との別れ、他人の為に自分を犠牲する、など、読者を怒らせる、悲しませることが「面白さ」のスタートになっています。
面白さのパラメーターとは?
色々な考え方がありますが、筆者は面白さは「心のベクトル」である、と定義します。 「ベクトル」とは方向と大きさ(動く量)ですが、方向は感情の方向、上記の「笑い」「爽快感」や「恐怖」「悲しみ」などです。これは基本的になんでもOKです。
問題は「大きさ」。 例えば、高学歴エリート、教育熱心な両親に生まれ、幼稚園から進学塾に通い成績優秀で有名小学校から名門中学高校と進み、見事、東大に入りました、というお話、面白いですか? 逆に、普通の両親、普通の高校でほぼビリの成績だった金髪ギャルが、偶然出会った塾の先生に心を開き一念発起、必死で勉強して有名大学に入りました。 このお話はどうでしょうか? つまり、
強者(エリート・成績優秀・恵まれた生まれ育ち・持って生まれた才能)→勝利
弱者(非エリート・成績ビリ・普通又は恵まれない環境・非才)→勝利
この違いが、心が動く量の違いです。 では、このように心を大きく動かすにはどうしたらよいのでしょうか? 「心を動かすパラメーター」=「面白さのパラメーター」として、3つの要素を挙げます。
「意外性」「作者の情熱」「面白さパワー」
この3つです。 次回に続きます。