【連載】第二回 面白いマンガの書き方2(池田六郎)

漫画テクニック
連載第二回 面白いマンガの書き方2

さて、前回のコラムでは、「面白さのパラメーター(要素)」として、

「意外性」「作者の情熱」「面白さパワー」この3つを挙げました。

今回はこちらについて解説していきます。

面白さの基本、意外性

前回、例として挙げたのは「ビリギャル」のストーリーですが、弱者が強者に勝つ、というのはストーリーの基本であり、面白さのベースとなるものです。
他に意外性のパターンとして、

「ありえない」→マーベルヒーロー、ハリウッド映画、男女入れ替わり、擬人化など
「大げさ・極端・突き抜け感」→極端なイケメン、美女、お金持ち、権力者など
「有りそうで無い」→極端に人情深い、お人好し、子煩悩、日常系、業界物など

などがあります。
業界物マンガとは、例えば、医療、消費者金融、調理師など、様々な業界を扱ったマンガのジャンルです。 広告マンガで考えた場合、業界内では常識でも一般的にはほとんど知られていないことがあれば、それは「意外性」になります。

作者の情熱は読者に伝わる

「作者の情熱」が面白さにつながる、というのは少し意外に感じるかもしれません。 もちろん、情熱があったとしても「一人よがり」「独善的」ではダメですが、失敗した作品の多くは、様々な理由での「情熱不足」によるものが多いと思います。

例えば、日本で特に多い「名作マンガの実写劇場版」、ヒット作の続編3~4作以降、人気マンガの連載引き延ばしなどです。これらは、原作に対する理解やリスペクトの不足、金銭や時間の不足など、いわゆる「手抜き」=「情熱不足」により駄作となっているものが見受けられます。

逆に、作者の情熱が強ければ、前回のコラムでも挙げましたが、自転車競技、男子シンクロ、百人一首、書道、心療内科など、地味でマイナーなジャンルでもヒット作を作ることが出来ます。有名なボクシングマンガのセリフのもじりですが、「情熱があれば名作になるとは限らない。しかし、全ての名作は作者の人並外れた情熱から生まれる」こんな感じでしょう。

単純だがきわめて強力な「面白さパワー」

この「面白さパワー」は私の造語です。
ドラゴンボールに出てくるスタウターに表示される「戦闘力」という言葉はご存知でしょうか? 猟銃を持ったオジサンは戦闘力5、フリーザが登場した当時の最大戦闘力は「53万」でしたね。 面白さパワーは、この戦闘力に似ています。

例えば、道路を走っている自動車。
軽トラックが道路を走っていても注目する人はほとんどいません。 しかし、ランボルギーニ・アヴェンタドール(最新最強のスーパーカーです)が轟音響かせて走っていれば、クルマに興味のない人でも注目するでしょう。

また、自衛隊の10式戦車が道路を走っていたら?
面白さパワーを無理やり数値化するとしたら、軽トラが5、ランボルギーニが1万、10式戦車が10万とかでしょうか。 人間で例えれば、普通のサラリーマンや普通のオジサンオバサンは面白さパワーは低め。女子高生、イケメン、アイドル、ベンチャー社長、メジャーなスポーツの選手などは高めです。

サラリーマンでも、派手なベンチャー企業、逆に極端なブラック企業であれば面白さパワーは高めでしょう。 この「面白さパワー」をしっかり理解すると様々な応用が出来ます。

例えば「擬人化」。
日本刀や軍艦、戦車などはマニアには人気がありますが、一般的にはマイナーな存在です。これらを何とかメジャーなヒット作品にしたい!と考えるなら、手っ取り早いのは「面白さパワーの高いものと組み合わせる」です。

もともと、このような擬人化の元祖的作品は、三国志の英雄を美少女化した「一騎当千」というマンガです。 ただ、この擬人化ジャンルは、歴史上の人物、城郭、銃火器など、美少女化の乱造で、今では少々下火になってきています。 このような極端なものじゃなくても、地味でマイナーなジャンルと美少女やイケメンとの組み合わせは「あたりまえ」という印象も強いですが、作る側としては意識していなければ作れません。

あとは意外性への応用。 先ほど例に挙げた、軽トラとランボルギーニですが、実は軽トラにはF1並みのエンジンがついていて、いざとなればランボを軽々とぶっちぎる。これはどうでしょうか。 つまり、「面白さパワー」が低いものが大逆転で高いものに勝つ、これで意外性を作ることが出来ます。 ドランクドラゴンの塚地さんが魔法のスーツを着ると谷原章介さんに変身するという「ハンサムスーツ」という映画も、このパターンです。

おわりに

いかがでしょうか。 一口に広告マンガ、実用マンガといっても、作り手の技術によって効果に大きな違いが出てきます。是非、これからは「マンガのクオリティ」にもこだわってほしいと思います。