【連載】第三回 「売れる」マンガに必要な3要素(池田六郎)
面白いマンガ=売れるマンガ?
前回のコラムでは「マンガの面白さ」を、意外性・作者の情熱・面白さパワーというパラメーターを使って説明してみました。 これらは、料理ならば素材や料理人の技術、建築物なら基本設計や施工技術などに当たるものでしょうか。 では、それらの要素が高いレベルなら、必ず「面白いマンガ」「おいしい料理」「よい建物」になるのでしょうか? たぶん、それはYESですね。 しかし、「面白いが人気は限定的なマンガ」「おいしいけれど繁盛しない店」「高品質だが利益が少ない建物」という状況も多く見られますが、それもYESでしょうか?
マンガも商業作品である以上、品質と利益や効果のバランスは非常に重要です。 今回は、「売れる」マンガ、広告マンガであれば訴求力のある効果的なマンガに必要な要素を考えてみましょう。
やはりマンガは絵が命!
筆者はマンガの学校で学生さんへの指導もしていますが、漫画家を目指す人が一番最初に学び、最も時間と労力を費やすのは絵の技術です。一番重要な人物の描写だけではなく、背景や様々なオブジェクト(物体)、水や炎などの自然現象など、マンガで表現される全てを見栄えよく描けなければ漫画家にはなれません。
やはり、マンガで最も重要な要素は「絵」「画力」であることは間違いありません。 しかし、絵が上手いだけでは面白いマンガにはならないし、売れるとは限りません。 マンガはイラストや絵画ではないからです。
さらに重要度が増しているキャラクター
昔のマンガでもキャラクターは重要とされていましたが、メディアミックスにより原作から切り離されたキャラクターの商品化が進み、近年さらにキャラクターの重要性は高くなっています。 マンガそのものの継続には限界がありますがキャラクターの寿命は極めて長く、優れたキャラクターは長期間、多大な利益を上げることが出来ます。
ただし、魅力のあるキャラクターを作り出すのは容易ではありません。 まずキャラクター有りき、で作品を作ろうとするのは無謀かもしれません。 長年愛される魅力的なキャラクターは、この後に述べる「世界観」や「面白さ」を追求した上で自然発生的に生まれるものではないでしょうか。
あまり意識されないマンガの土台「世界観」
世界観とは、描かれたマンガのベースとなる考え方の総体です。 ジャンプマンガでいえば、有名な「友情」「努力」「勝利」と、個別のマンガで「描かれた考え方」です。 例えば、「ワンピース」であれば「仲間を守る」「自己犠牲」が重要であり、「ドラゴンボール」であれば「未知の強敵と戦う挑戦=冒険」であり、「北斗の拳」であれば「強敵=友」となります。 なので、ドラゴンボールであれば倒した敵が仲間になっていく(一度倒した敵とは戦わない)が、ワンピースでは仲間とそれ以外はかなり明確(敵の大物は仲間にならない)、北斗の拳のケンシロウは非常に孤独(倒した敵は死んでしまうが友)です。
また、ギャンブルマンガの福本伸行さんのマンガでは、ギャンブル以外では社会性に乏しく、ほぼ社会不適合者のような人物が非常に魅力的に描かれます。例えば、「課長島耕作」の世界観に「アカギ」や「カイジ」がいたら仕事の出来ない無能者でしょうし、逆に「アカギ」の世界観に島耕作がいたら鷲巣さんに媚びる人の一人でしょう。
このように、世界観はキャラクターやストーリーのベース(土台)として作られるもので、絵やキャラクター性と違い、明確に読者の目に見えるものではないですが、キャラクターやストーリー作りや作品の空気感(タッチ)などに大きく影響を与える、非常に重要な要素です。
さて、今回のテーマである、「絵」「キャラクター」「世界観」の3つと、前回、説明した「意外性」「作者の情熱」「面白さパワー」の3つ、この2つのグループの違いはなんでしょうか? それは、外向き、内向きの方向性の違いです。
「絵」「キャラクター」「世界観」は読者に向けた外向き、「意外性」「作者の情熱」「面白さパワー」は作者が自身の作品を作るうえでの内向き、ということになるかと思います。
では、実際にマンガを描く(制作する)上で、この3要素をどのように考えて行けばよいのでしょうか。
要するに、絵が上手くてキャラクターが魅力的で斬新な世界観なら、そのマンガは売れます。 しかし、それは「新宿駅山手線ホームから徒歩10分以内の立地でミシュラン1つ星取れるなら繁盛する」みたいな話ですよね。それが出来たら苦労は無い、ということです。
しかし、レストランや他の商売と違いマンガの場合ですと、もちろん簡単では無いですが不可能では無いようです。
例えば、「エアギア」の大暮維人さんの絵で、福本伸行さんの世界観、ワンパンマンのONEさんのキャラクターだったら、そのマンガは売れるでしょうか? そして、このプロジェクトは実現不可能でしょうか?
……売れそうですね。 それに実現の可能性もありそうです。
現実に、Webマンガ「となりのヤングジャンプ」で連載中の「ワンパンマン」はONEさん原作で、絵は「アイシールド21」の村田雄介さんのコンビ、「デスノート」「バクマン」は絵が小畑健さん、原作は大場つぐみさんです。
手塚治虫さんや石ノ森章太郎さんの時代から、漫画家は絵もストーリーも一人で描き考えるのが常識でした。しかし、長い歴史を経てマンガも多様化複雑化が進み、一人の作家で「絵もキャラも世界観も」ということが非常に難しくなっています。 高い画力の持ち主と、斬新な世界観を作れる原作者の組み合わせは、ある意味、今後のマンガ制作における「必勝パターン」かも知れません。
また、これは広告マンガにおいても例外ではありません。 原作者が専門分野についての研究検証、クライアント様への取材や打ち合わせ、草稿のチェックまで行い、漫画家さんには絵に専念して頂くという流れです。