【連載】第三回 良いイラストと悪いイラスト(青木健生)

漫画テクニック
連載第三回 良いイラストと悪いイラスト

はじめに

こんにちは!漫画制作者の青木健生です。
今回は、良いイラストと悪いイラストの違いについて説明したいと思います。
私は主にマンガ制作の仕事をしていますが、イラスト制作の仕事もしています。
マンガと同じく、私がイラストを描くわけではないですが、だからこそイラストの善し悪しを見極める目も鍛えてきたつもりです。
今回はそんな、イラストの「目利き」の仕方についてお話します。

イラストレーターに一番必要な能力

イラストはマンガと違って、文字(活字・写植)を使って表現することが出来ません。
絵(イラスト)だけによって情報から、そのイラストの個性から魅力までも伝えなければならないのです。
だからこそマンガ家よりもイラストレーターの方が、「画力」というものを求められがちなのです。

しかしその「画力」という言葉には、「女の子を可愛く描く」「リアルに描く」などの、一般的に言われる「絵の上手さ」だけが含まれているわけではありません。
第1回でお話した「マンガの絵」のように「イラストの絵」についても「何を描いたか分かるように描く」こと、つまり「情報伝達力」が大事なのです。

人物のイラストを描いた時は、その人が男性なのか女性なのか。
中学生なのか、高校生なのか。どんな個性や魅力の持ち主なのかを、イラストだけで伝える必要があるのです。
文字が使えないイラストレーターの方が、マンガ家よりも高い「絵による情報伝達力」を求められているとも言えるでしょう。

イラストを描く時の基本中の基本

では、「イラストによる情報伝達力」を上げるには、どうすればいいのでしょうか?

もちろん「絵の上手さ」と言い換えられる「画力」を上げることも効果的です。
でもそれよりも手っ取り早いのが、「ぜんぶ描く」ことです。
人物のイラストを描いたのなら、頭の先からつま先まで描き切りましょう。
商品のイラストを描いたのなら、その商品の端から端まで描き切りましょう。

頭の先まで描かないと、その人がどんな髪型なのか、どんな髪色をしているのかが100%断定できません。
そして、その人がどんな靴を履いているのかまで伝えた方が、この人物のキャラクターを他人に理解させやすいです。
全ての姿、つまり描けるかぎりの「全ての情報」を描ききることが、「他人が分かるように描く」ための近道なのです。

「流行り」よりも「感情」を描く!

またこれはマンガでも言えることですが、人物のイラストを描く場合は出来るかきり「正面」を向けて描きましょう。
見ている人と目が合うくらいの方が、描いた人間の魅力や感情が伝わりやすいです。

人物をイラストで描く場合は、その人物の「感情」を伝えることも強く意識すべきです。
「萌え絵」に代表されるように、イラストの描き方には流行りがあります。
しかしマンガを含めた「絵を描く」時に大事なのは、流行りに乗ろうとすることではなく、しっかりと絵の中に「情報」や「感情」を詰め込めるかどうかなのです。

「萌え絵」で描かれた美少女が人気なのは、「流行りの絵」だからではありません。
 彼女たちの「笑顔」に、現在の多くの人の感情が動かされるから人気なのです。
「喜怒哀楽」のうちの「喜(よろこび)」「楽(たのしい)」というポジティブな感情は、多くの人を引きつけます。
 その感情を具体的に描けるのが、「笑顔」なのです。

多くの人に感情が伝わる笑顔を描ける絵描きさんには、多くの依頼があるでしょう。
そして「怒(いかり)」や「哀(かなしみ)」なども含めた人間の感情を、表情などでしっかりと伝えることの出来るイラストレーターさんは、優秀だと言えるでしょう。

「デジタルで描く」ことの優位性

その他の「良いイラストを描くための注意点」としては、「多くのイラストがフルカラー」だということです。
マンガは表紙以外はモノクロだったりすることが多いですが、イラストの場合は色を塗ることの方が多いです。
しかし、プロとしてクライアントの要望を尊重しながら仕事をする場合は、描いたものの修正をお願いされることも多いです。
修正は下書きの段階ならしやすいですが、完成した手書きの「アナログ原稿」を修正するのは大変です。完成したカラー原稿については、「修正できない」と言っていいでしょう。

でもイラストの彩色は印象や完成度に大きく影響を与えますので、クライアントとしても「納得できる色」にしたがります。
パソコンなどを使った「デジタル原稿」のイラストであれば、着彩した後に色を変更することが出来ます。
最近、マンガも含めてデジタルで作画をする方がとても増えました。
7割以上のプロがデジタル作画で仕事をしたり、デジタルに移行したと言ってもいいのではないでしょうか。

これからプロのイラストレーターを目指す方は、絶対にデジタルで描けるようになってください。その方がクライアントのニーズにも対応しやすいですし、作画や修正に対するメリットも大きいのです。

おわりに

マンガよりもイラストの方が、「絵」に対する重要度が高まります。そのためイラストレーターの方が、「絵を描く」ことに対する意識をさらに高める必要があります。
「上手いイラストが、良いイラストとも限らない」
ことも意識しながら、絵が描ける方はイラストの世界でも活躍してください!