【連載】第三回 絵だけじゃない?原作をトレースせよ(東町青従)

漫画テクニック

はじめに

どうも漫画家の東町です!

絵を描くときに写真などの資料を原稿の下に敷いて、それをもとに描く”トレース”と呼ばれる技法。 実は絵だけでなく原作にも応用できるんです…!

上達への近道は上手い人のマネをすることです。 しかしそのまま同じ原作を描くとパクリになってしまいます。 なのでフォーマットだけ抜き取って作り方だけマネをします。

料理を作るときもまずはレシピを調べてから作りますよね。

すべきことを考える

一般的によく言われるのが”起承転結”ですが、それでは具体的に何をすればいいのか分かりません。 では分解してやるべきことを整理してみます。

〈起〉主人公がどんな人物かを見せる

〈承〉漫画のテーマが解になるような”問い”を投げかけ、それをキャラクターが追いかける

〈転〉問いの答えを提示し、なおかつその答えに読者を驚かす工夫を凝らす

〈結〉問いの答えにたどり着いた主人公の達成感を感情で表す

“起承転結”や”三幕構成”という言葉にとらわれる必要はありません。 面白い漫画に共通する「やるべきこと」は同じなので、まずは肩肘を張らずにそこに集中しましょう。

これを、漫画家を志す主人公が夢を叶えるまでの成長を描いた人気マンガ「バクマン」の1話目を例に解説していきます。

作品を分解する

「バクマン」第1話”夢と現実”

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主人公・真城最高の登場。 マンガ家の叔父を持ち、絵が上手いが 14歳にしては冷めた目で人生を達観している。 クラスに片想いの女の子・亜豆美保がいるが話したこともなければ、告白する勇気もない。

放課後、同じクラスで学年トップの成績を誇る高木秋人に亜豆も真城のことが好きだと言われるが確信はできないまま。 さらに真城は、高木に絵の才能を買われ「俺が原作を書くから絵を描いてくれ」とマンガ家になろうと誘われるも断る。

一旦家に帰り、叔父と子どもの時に話したことを思い出す。 叔父さんには学生時代からずっと好きな人がいて、有名なマンガ家になってその人に告白することを目標にマンガを描き続けるも、あと一歩のところで夢は叶わず他界。 この叔父さんの死を機に真城はマンガ家を諦め人生を達観するようになった。

そこへ一本の電話が鳴る。 真城は高木に「今から亜豆に告白するから来てくれ」と呼び出される。

二人で亜豆の家に行く 真城は高木にあおられ、二人で「マンガ家になる」と亜豆に告白。(高木が言っていた告白とはこのこと) さらに真城は叔父さんの夢と目の前の状況を重ねてしまい勢いで亜豆に「夢が叶ったら結婚してください」と言ってしまう。 しかしなんとOKをもらう。 ただし条件は「夢が叶うまでは会わない」こと。 こうして真城はマンガ家への情熱を取り戻し、3人の夢を叶えるべく再びペンを握る。

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ここまでがバクマン第1話の要約です。 ではこれを先述した起承転結でやるべきことに当てはめてみましょう。

分解した作品をフォーマットに当てはめる

〈起〉冒頭の数ページで主人公・真城の「絵が上手いこと」と「冷めた人生観」を描いてどんな人物かを見せています。

〈承〉次に真城とは対照的な野心家の高木を登場させ、漫画家へと誘わせることで真城の心は揺さぶられます。 ここで読者に「真城にはもう漫画家への情熱はないのか?」「ヒロインの好きな人は誰なのか?」という問いを投げかけています。 そして「ヒロインの好きな人は誰なのか?」という問いの答えを主人公・真城に追わせます。

〈転〉ついに真城は「二人が両想いである」という問いの答えにたどり着きます。 しかし、ただ「好きです→付き合いましょう」となったのでは普通です。 なのでそれを飛び越えた”結婚”というアイデアで読者を驚かせます。これが工夫です。

〈結〉最後に真城の”喜び”を描きます。 冒頭での真城の”冷めた”部分を見せたことが対比になり、情熱を取り戻した真城の気持ちが際立ちます。

変化を見せる

もう一つ大事な要素があります。 それは主人公の気持ちが最初と最後で”変化”している点です。 それも180度逆転したと言っていいぐらいの変化。 これは、よりその変化を印象づけるためです。

この対比は様々な場面で有効です。 主人公・真城の冷めた態度とは対照的に同級生の高木が野心家であることも主人公を際立たせている1つのアクセントになっています。

第1話の”夢と現実”というタイトル通り、この漫画のテーマは「夢」です。 まずは「夢は叶うのか?」という、マンガ全体を通しての問いがあります。

そして、主人公はその夢を叶えられる人物かどうかですが、読者はやる気のない主人公が夢を叶えられるとは思いませんので、 第1話では主人公の「情熱」を見せなければなりません。

そこから逆算して冒頭は主人公の冷めた人生観で”現実”を突きつけています。 ここで注意すべきなのは、「なぜ冷めた人生観になったか」その理由となる過去も合わせて描くことです。

中盤での死んでしまった叔父さんとのエピソードがそれにあたります。 元から冷めた人間がいきなり情熱的になったのでは読者もついていけません。 なので「情熱はあったが失ってしまっている」ということを読者に示します。

そしてクライマックスでは、この主人公が情熱を失うきっかけになった叔父さんとのエピソードとダブらせることで、 主人公が再び変わるきっかけとなっています。

叔父さんは現在のダメな自分を象徴する存在でもあるのです。 このまま変わらなければ叔父さんの二の舞。 死んだ叔父さんも報われません。

ここでやっと主人公の真城はヒロインと結婚するために再び情熱を取り戻すのです。

さいごに

今回紹介したのは一つの例に過ぎません。 別の考え方や解説もあるので時々紹介していきたいと思います。

ただ一つ言えるのは、 例えば料理ができる人は、その料理に必要な材料とレシピもわかっているということです。

そう、作れる人は分解もできるのです。 (逆に分解できる人が作れるとは限りませんが…)

今日紹介したマンガの分解は映画やドラマなどでもできるので、 ぜひ自分の好きな作品で試してみてください。