【連載】第六回 キャラクターの作り方(池田六郎)

漫画テクニック
連載第六回 キャラクターの作り方

前回、売れるマンガの3要素として、「絵」「キャラクター」「世界観」をあげましたが、 その中から今回は「キャラクター」について、少し詳しく解説したいと思います。

前回、

長年愛される魅力的なキャラクターは「世界観」や「面白さ」を追求した上で自然発生的に生まれるもの。

と、書きましたが、これは「ドラえもん」や「マリオ」などのような、 世界的なキャラを狙って作るのは難しい、とでもいうようなニュアンスで、 マンガなどの作品を作る上では、意識して魅力あるキャラクターを作る必要があります。

魅力的なキャラクターとは?

まず重要なのは「二面性」です。 例えば、強くて頭がよく性格も良くてイケメンでお金持ち。 こんなキャラクターは魅力的でしょうか? 大昔のヒーローならありだったかもしれませんが、現代的な魅力のあるキャラクターとはいえないでしょう。 逆に、平凡な学生やサラリーマンで、特技も無ければ性格や考え方も普通、 こんなキャラクターはどうでしょう? さすがに地味すぎて、いわゆる「日常系」や昔の文芸作品でも、これでお話を作るのは難しいかもしれません。

つまり、魅力的なキャラクターには、ヒーロー的な特技や特徴と、 一般人のような普通さや弱点欠点が必要です。 これを「憧れ性」と「共通性」といいます。

読者の願望をかなえるスーパー要素が「憧れ性」

憧れとかスーパー要素というと、「特技」「頭いい」「イケメン」「お金持ち」など、 極端な大きな能力というイメージがありますが、「子煩悩なお父さん」「実直な会社員」「友情を大切にする少年」などの一般的な要素でも、 それがストーリーの中で、十分に大きければキャラクターとして成立します。 この憧れ性ですが、作品の中では2つの目的があります。

普通の人では実現不可能なことをすることにより読者に爽快感を与えることと、 主人公にふりかかる試練を打ち破りストーリーを進める推進力としての役割です。

読者の共感をよぶ「共通性」

共通性は憧れ性の逆で、読者と同じような欠点弱点、短所をキャラクターに与えることにより、キャラクターに親近感を持たせることが目的です。 ただ、注意しなければならないのは、あくまで共通性は憧れ性との対称であるということです。 強い力はあるが3分間しか戦えない、敵には強いが傲慢で仲間から嫌われている、実直で真面目だが融通が利かず不器用、などのような「憧れ性とのかみ合わせ」だったり、 大きな力や能力であれば、それに釣り合うような大きな弱点が必要です。 なぜかというと、共通性には、主人公に障害や試練を与えストーリーを止めるブレーキの役割があるからです。

キャラクターが物語の緩急を作る

意外に視聴率が取れるスポーツにマラソンがあります。 では、一見地味なマラソンが面白くなるのはどういう状況でしょうか。 例えば、全盛期の高橋尚子さんのような人気者(魅力のあるキャラクター)が出ている。 これだけで「面白い」でしょうか?

高橋選手がスタートから独走で一度もトップを譲らず大差でゴールイン。 逆に、高橋選手がスタート直後にトラブルでリタイヤ。 これは「面白い」でしょうか? 独走でもリタイヤでも「面白くない」ですよね。

では、高橋選手、序盤は不調で第2か第3グループで苦戦、 しかし中盤から追い上げにかかって他の選手をごぼう抜き、 最後は強豪ライバル選手とデッドヒートの一騎打ち、 逆転勝利で世界記録更新の金メダル。これなら面白そうです。

つまり、ストーリーの流れとしては、

主人公が苦戦→努力して苦境を脱出→強力なライバルに苦戦→逆転勝利

こんな感じですが、マンガを描く上では、こうなるように作らなければいけません。 強すぎて弱点が無く完全無欠ならピンチにならないし、 強みが弱ければそもそも勝てません。 弱点もマラソンに関係のあるものでなければ意味がありません。 ※スロースターターで序盤に弱いとか、暑さ寒さ、雨に弱いとか。 つまり、「憧れ性」「共通性」「試練や苦境」「ライバル」など全てを作る必要があります。

終わりに

さて、ここまでの説明で気が付いた方もいるかもしれませんが、 キャラクターとストーリーは、ニワトリと卵の関係のように、どちらを先に作ってもかまいません。

このことは広告マンガの場合、かなり重要で、実在の人物をマンガのキャラクターにする、 実際にあったエピソードを元にキャラクターを作る、どちらも可能というです。

ただ、読者に内容を理解してもらうためには、面白く読んでもらうことが重要で、 そのためには、キャラクターやエピソードを多少誇張することも必要となってきます。 また、人物もエピソードも変えず、誇張も少な目で、というご依頼も多いのですが、 その場合、広告というよりドキュメンタリーや伝記に近いものになってしまいます。 逆に、人物もエピソードも指定はなくゼロベースで考えて、というご依頼もたまにありますが、これも、マンガ家や原作者がその業種業界に詳しくない限り、読者に伝わるリアルな作品になりません。

もちろん、制作者の腕にもよりますが、一般的には、キャラクターかエピソードのどちらかを指定した上で、可能な限り制作サイドに自由度を与えた方が良い結果が得られるでしょう。 ご参考にして頂けると幸いです。