【連載】第七回 モノローグ(心の声)の表現について(池田六郎)
便利だが多用は危険な「モノローグ」
相手キャラクターに聞かせるセリフとは違い、 キャラクターの「頭の中で考えていること」を文字で表現するのが「モノローグ」です。 元々、「モノローグ」とは、舞台演劇で俳優が相手役と関係なく語る「独り言」のことで、役者がライブで演じる舞台演劇では実際に発声する必要があります。
映画やアニメーションなどの映像作品の場合、口を閉じた演技のまま、 エコーがかかった声で表現したりしますが、 映像作品でも舞台演劇のように声に出して喋ることも多くなっています。 マンガでは、吹き出しの形を変えたり、吹き出しを使用せず、 背景に直接、文字を入れたりして表現します。
モノローグの効果としては、
1.キャラクターの心理を直接、読者に伝えることが出来る
『俺は今、猛烈に感動している!』
『これでとどめだ!』
『ふふっ、計画通り……』
2.言葉や行動と違うことが言える
『こう言っておけば、しばらくは大丈夫……』
『バカめ、まんまと騙されおったわ!』
3.絵やセリフの組み合わせで説明することを省略できる
『まてよ、そうか! 昨日のあの行動は罠だったのか!』
『これをこうして……っと、後はこのパーツを組み込めば完成だ!』
などがあります。 モノローグでは、キャラクターの心理を直接表現できるので、 作者が考えた、複雑なキャラ設定やストーリー、例えば、裏切りや心変わり、 状況や関係の変化も簡単に説明できます。
さらに強力な説明手法、テロップやナレーション
似たような効果が得られる手法として「テロップ」があります。 これは、キャラクターを介さず、直接、読者に文字で読ませる方法です。 舞台や映画などでは、声で説明する「ナレーション」となることが多いですが、 あえて文字を画面に表示して読ませるケースもあります。 ※スターウォーズのオープニングクロールなど
これはキャラクターを使わない分、ある意味最強です。
キャラクターの心理
[ その時、彼は悩んでいた ]
状況の説明
[ 人々は自らの行為に恐怖した ]
ストーリーの進行
[ 一方その頃、アメリカ・ニューヨーク ]
まぁ、テロップとモノローグ、あと、次回説明する「回想」を使えば、 どんなに複雑な設定やストーリーでも簡単に説明できます。
昔、多かった2時間サスペンスドラマなどのラストシーン、 崖の突端に追い詰められた犯人が、一人セリフで自分のやった犯罪の動機や トリックを長々と説明する、なんてシーンがよくありましたが、 あれは無理にストーリーのつじつまを合わせる苦肉の策です。
しかし、これは「面白くない」ですよね。
なぜでしょうか?
「説明」は、変化と意外性による「面白さ」とは別のものだからです。
例えば、
「1867年、坂本龍馬は船中八策を起草した」
なんていう受験勉強の暗記のような説明は「面白くない」ですが、
土佐の藩船「夕顔丸」の甲板に龍馬と後藤象二郎、海援隊の長岡謙吉が車座に座っている。後に「船中八策」と言われる新政府の国家体制を熱く語る龍馬。 「とんでもないこと言う奴じゃ……」と舌を巻く後藤象二郎。 意味は分からないが、すごいことを言っていると必死で書きとめている長岡。
また、あるキャラクターが天才である、ということを表現するとしましょう。
モノローグを使用した場合
『俺は天才だ!』
テロップを使用した場合
[ この人は天才です ]
エピソードで説明した場合
「僕は、その六法全書を全て暗記しています。お好きなページを読んでみて」
適当なページを開き読み始めると、それを受け取って続きを暗唱する。
どうでしょうか。
「天才」の例はかなり極端ですが、アマチュアの作品では似たような表現をよく見ますし、
プロによる商業作品でも、上にあげた2時間ドラマの例のように、
予算や長さを節約するために使われるケースがあります。
上手に使えば、分かりにくい心理の変化や複雑な設定を、 効果的に説明する事が出来ますが、安易に使うと単なる説明となってしまい、 非常につまらないものになります。 本来の描写や演出をしっかり行った上で、 ピンポイントでモノローグやテロップを使用する、というように考えるとよいでしょう。