【連載】第八回 一人に向けて描いた方が多くの人に届く!?伝える極意!(東町青従)

漫画テクニック

どうも漫画家の東町です。

以前、連載で紹介させていただいた
あるエピソードがあります。

大人気マンガ「ONE PIECE」の主人公、モンキー・D・ルフィの夢は「海賊王になること」。
読者は彼の言葉を信じ応援したくなります。

第一話でルフィは自分の何倍も大きな海王類・近海のヌシを
パンチ一発で仕留めた後で、こう言います。

「海賊王におれはなる!!!」

このように実際に行動し結果を出した人が言う言葉には説得力がありますね。

キャラクターの主張は行動の後に言わす。
こういう何気ないところに伝えるための技術は盛り込まれているのです。

神は細部に宿る、ということでしょうか。

今回は伝えるための極意をさらにいくつかご紹介していきます。

フリを作る

最近の言葉では「フラグが立つ」なんて言いますが、
キャラクターが「必ず生きて戻る!」なんて言うと

読んでる側は「死んでしまうのかな」と想像を掻き立てられてしまうことでしょう。

例えばミステリーや推理漫画などで、犯人視点で主人公がこっちに歩いてくるところを描くと、

「主人公が危ない!この後どうなるんだ!?」と読者はハラハラします。 こうしてフリを作り、ある程度読者に予想させたり想像させることでキャラクターに感情移入してもらいドキドキワクワクさせることができるのです。

キャラの性格を伝える方法

これはよく勘違いされてしまいがちですが、
そのキャラクターがどんな人物であるか読者に知ってもらうためには、
絵で伝えるべきでしょうか?それとも
セリフで伝えるべきでしょうか?

実はそのどちらでもありません。
答えは「エピソードで伝える」です。
そうすることで読者に強く印象を残すことができます。

例えば「怒ると恐い」というキャラクターを
絵で描いたり、セリフで言うより

「いつも優しいけど、友達を傷つけられた時は恐ろしいくらい怒る」といった具合にエピソードとして伝えることでキャラクターが際立ちます。

シンガーソングライターから学ぶ“伝える極意”

聴く人の心を揺さぶるシンガーソングライター・竹原ピストルさんが歌う曲の中にはこんなタイトルのものがあります。

・リョウジ
・どんとやってこいダイスケ
・例えばヒロ、お前がそうだったように
・LIVE IN 和歌山
・最後の一手~聖の青春~

これらにはある共通点があります。
それはたった一人の人物、たった一つの場所・物に向けて書かれているということです。

漫画であり歌であり、作者の願いとしてはできるだけ多くの人に届いてほしいものです。
そこでやってしまいがちなのが「みんな」に向けて書くというミスです。

ですが「みんな」に届けたい時は
あえて「特定の人」に向けて書きましょう。

例えば「シンガーソングライターが好きだ」と言うより
「竹原ピストルが好きだ」と言った方が
それに共感してくれる人が多くなります。

「みんな」という人はいないのです。

シンガーソングライターといえばもう一人。
スガシカオさんは作詞をするときこんなことに気をつけているそうです。

例えば歌詞の中に「公園」が出てくるとしたら、
誰もが思い浮かべる「よくある公園」ではなく、
自分が通いつめていた「近所の公園」を書く。

・ベンチに背もたれはあるのか、座り心地はいいか、はたまた錆びているか
・フェンスはあるか、使用禁止になっている遊具はあるか
・仕事をサボってるサラリーマンや首輪のついた犬がいるか

など具体的に描写します。
そのほうがこれまた多くの人の共感を呼ぶのです。
どれだけ特定しても同じような物は少なからず存在します。

人気バンド・サカナクションの山口一郎さんは後輩のバンドマンに「CDを10万枚売るにはどうしたらいいですか?」という質問をされ、

「100万枚ではなく10万枚という具体的な数字を意識している彼らは売れるだろう」と思ったそうです。
それが後の人気バンド・クリープハイプの尾崎世界観さんでした。

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餅は餅屋という言葉がありますが、
それと同様にマクドナルドでお寿司は出てきません。
当たり前ですが洋服屋で車も売ってません。

SNSで何かを発信するときも
イラストならイラスト
ポエムならポエムというように
ジャンルを絞った方が多くの人に届き、フォロワーは増えるでしょう。

インスタグラムではなんと、煮干しの画像だけを毎日投稿するアカウントがあり、驚くべきことに2019年5月現在3万人を超えるフォロワーを獲得しています。 ( instagram.com/niboshism/ )

さいごに

「いい匂いが好き」と言うより
「金木犀の匂いが好き」というように

具体的であればあるほど深く人の心に刺さり感情を揺さぶることができます。

大事なのはまず、「自分が何を人に伝えたいか」を見つけることです。
人に伝えたいことが見つからない場合は過去の自分に伝えたいことでも大丈夫です。

そうして伝えたいことを見つけたら
100万人に届けるよりも、まずはたった1人に届けるように意識するといいでしょう。
その1人に共感する人が世界に100万人いるのです。